民法改正で相続の何が変わる? ①

相続に関するトラブルを防ぐために、民法では、誰が相続人となり、また、何が遺産にあたり、被相続人(亡くなった人)の権利義務がどのように受け継がれるかなど、相続の基本的なルールが定められています。
この民法の相続について規定した部分を「相続法」と言います。
相続法は、昭和55年(1980年)に改正されて以降、大きな改正は行われていませんでしたが、高齢化の進展など社会環境の変化に対応するため、約40年ぶりに大きな見直しが行われ2018年7月6日に相続法が改正されました。
この改正により、例えば、残された配偶者が安心して安定した生活を過ごせるようにするための方策などが導入されることになりました。
今回の改正により、自分が亡くなった時、あるいは家族が亡くなった時に生ずる相続に関して、どのような点が、どのように変わったのか相続法改正の内容を紹介します。

1.配偶者居住権
【施行日:2020年4月1日(施行済)】
配偶者の居住権については、短期と長期の2つの改正があります。
1 配偶者の短期居住権
被相続人(亡くなった人)の建物・家に配偶者が無償で住んでいるとき、最低でも6ヶ月間はその家に無償で住み続けることができるようになりました。
従来の制度では、誰かに家が遺贈されたり、被相続人が家を使わせない遺言を残していたり、相続放棄したりすると、配偶者はそれまで住んでいた家に住むことができなくなってしまっていました。
改正により、常に必ず6ヶ月間は配偶者が居住できるので、突然住む場所を失ってしまうことがなくなります。
2 配偶者の長期居住権
被相続人の建物に配偶者が住んでいる場合、配偶者は遺産分割で「配偶者居住権」というものを取得できるようになります。
これまでは、配偶者が遺産分割で被相続人の家を取得すると、遺産の内容・額によっては他の財産を受け取ることができず、生活費が不足するなどの問題がありました。
改正により、家は他の相続人が相続し、配偶者は配偶者居住権を取得することで、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産もより多く取得できるようになり、配偶者のその後の生活の安定を図ることができるようになりました。
事例を使って解説します。
夫が2,000万円の住宅と現金3,000万円の財産を遺して死亡し、相続人が妻と1人息子だけだったとします。
妻は夫とその住宅に住んでいて、息子は独立して自分の家を持っています。
<法改正前>
妻と1人息子の取り分は1/2ずつなので、総額5,000万円分の財産を2人で折半することになります。
このとき、妻がそのまま住宅に住み続けることになると、2,000万円の住宅を相続するので、妻は現金については500万円しか相続できません。
その住宅に住んでいない息子は現金2,500万円を相続します。
現金だけ見ると、妻は500万円、息子は2,500万円を相続します。
被相続人(夫または父親)の死亡により、妻も息子も住環境は変わっていないのに、相続する現金の額は5倍も差があります。
<法改正後>
まず妻と息子は、現金3,000万円を折半します。
妻も息子も1,500万円ずつ相続します。
そして2,000万円の住宅について、仮に、配偶者居住権が半分、残りの所有権が半分の価値を持っているとします。
そうすると、妻が相続する住宅の1,000万円分は「配偶者居住権」としての1,000万円になります。
そして息子が相続する住宅の1,000万円分は「負担付き所有権」としての1,000万円になります。

2.遺産分割の改正
【施行日:2019年7月1日(施行済)】
遺産分割は大きく分けて3つの改正があります。
いずれも施行日は同じです。
1 夫婦間での家・土地の贈与
婚姻して20年以上の夫婦間で、家などの遺贈・贈与があったときに、その分は遺産の先渡しとして計算しないことになります。
すなわち、改正前には、被相続人が生前、配偶者に対して自宅の贈与をした場合でも、その自宅は遺産の先渡しがされたものとして取り扱われ、配偶者が遺産分割において受け取ることができる財産の総額がその分減らされていました。
そのため、被相続人が、自分の死後に配偶者が生活に困らないようにとの趣旨で生前贈与をしても、原則として配偶者が受け取る財産の総額は、結果的に生前贈与をしないときと変わりませんでした。
今回の改正により、自宅についての生前贈与を受けた場合には、配偶者は結果的により多くの相続財産を得て、生活を安定させることができるようになります。
2 預貯金の払い戻し
改正前には、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済など、お金が必要になった場合でも、相続人は遺産分割が終了するまでは被相続人の預貯金の払戻しができないという問題がありました。
そこで、このような相続人の資金需要に対応することができるよう、遺産分割前にも預貯金債権のうち一定額については、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関で払戻しができるようにしました。
3 遺産使い込みの対策
相続人のうち誰か一人が遺産を使い込んでしまった場合、他の相続人の同意だけで(使い込んだ人の同意無しで)使い込んだ分も遺産分割の対象に含めることができるようになります。
従来の制度では、遺産を使い込まれてしまった分は遺産分割の対象外で、最終的に取り戻すには訴訟しかなく、また訴訟でも取り戻しきれませんでした。
これでは使い込んだ者勝ちで不公平なため、使い込んだ分も遺産に含めて分割し、公平になるようにされました。

次回も引き続き、相続法改正の内容について記していきたいと思います。

※イラストは毎日新聞社ウェブページより。